その二

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 あの丘で抜いたのは、軍の関係者ではなく、さらに雲の上のような存在の王族の誰かであったのだ。覆面をしていたのも当然だ。でなければ、王族の居城の一つであるウィンデイサー城に召喚されることなどない。  隊長に指摘されるくらいの、妙な賢しさがあるユークにはもう実質死刑宣告としか思えなかった。だからもう精神が我慢できず、とうとうぷっつり切れてその場で気を失って倒れてしまうのだった。 「君っ! 君っ!」  アスコルト長の呼びかけがぼんやりと耳に入っている。けれどそれはどんどんと遠くなり、そして最後に待っているであろう景色を振り払うかのように、完全に意識をなくすのだった。    ウィンデイサー城。陽は完全に上りきり、昼へと近づいていた頃。意識を取り戻したユークはお手伝いさんにされるがままに髪や服装を整えられ、フロックのデザインになっている紺色の軍服を着、王族の前へと連れてこられた。  侍女などお付の者が並ぶ中、立派な椅子に座って待っていた王族は女の子だった。ユークは当然、彼女のことを知っている。  エングリスの現国王の娘、つまり姫である、アリルケイト・ステライ・エングリス。通称、アリル姫だった。年齢は十六歳になる。とても可愛らしい顔立ちの少女で、煌びやか
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