その二

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「口を閉じよ、クロコント! 我が城であるぞ!」  姫が芯の入った声色でユークに唾を飛ばしていた男を叱った。彼は彼女よりも圧倒的に年齢を重ね、しわも目立ち、五十辺りに見える。けれどそう言われてしまえばすぐさまに従わなければならない。クロコントはユークを睨みながら黙り込んだ。  その名前でユークは彼が有名な貴族である、クロコント卿であることを知った。落ち着いたデザインだけれども、素晴らしい生地で仕立ててある服装を着ている。そこまでの位にもなれば、カラカコスに唾を吐くのも無理はなかった。 「うむ、結構。さらに気に入ったぞ。騎手は己を強く持たねばなるまい。私が見てきた一流の騎手たちがすべてそうであったようにな」 「ひ、姫さま……っ」 「口を閉じよといったはずじゃぞクロコント。これは私の話だ、私が決める。さて、バロチルーよ、もちろん引き受けてくれるな?」  とても華やかな笑顔を向けているけれど、すごい強制力があった。長い髪のとても可憐な姫に圧され、ユークは仕方なく受け入れるしかなかった。 「ありがたき幸せ……」 「よし、決まりだ! これから専属騎手としてよろしく頼むぞ、ユーク・バロチルー」
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