その二

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 彼がアスコルトの丘でナルとともに抜いたエクルスがそこにいた。耳をピンと立て、じいっと前に立ったユークの顔を見つめている。警戒しているわけではなく、ただ興味を持っているだけらしい。ユークが鼻筋を一撫ですれば、気持ちよさそうにちょっとの間目を閉じた。  無口(ハミや手綱のない頭絡)には、名前入りのプレートがあった。 「アスルコート」 「はい。彼はアスルコート。オスの三歳。父はヴァークロム、母はミストレス。姫さまが考えた配合の、姫さまらしい良血です」 「えっ、アリル姫さま直々に生産をしていらっしゃるのですか?」 「ええ。姫さまは相当に力を入れておられますから。もうセリで買うこともなく、かなり小頭数ですが、すべて自家生産なのです。お産だって毎年手伝っておられます」  感心しきってしまって、そして親しみをより覚える。同じエクルス好きとして、仲良くやっていけそうだと考える。とにかく悪い人ではないことは、やはり当然のようにそうであった。 「この、ヴァークロムという種はすごいのですか?」 「それはとても。ただ、現在トップのヘロルドとその産駒、ハリンフラントを抜けるほどではありませんけれど。あの二頭の産駒は数々の大レースを総なめしていますから。今年
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