その一

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   エングリスの一地方、アスコルトに兵士たちの拠点があった。戦いが落ち着きを見せたとしても、兵士たちは消えることなく、各々の訓練を怠ってはいない。アスコルトの近くには王家が居城の一つとする、ウィンデイサー城が建っていて、兵士たちはそこの警備が現在一番の仕事になっている。  とは言うものの、本物の戦いなど誰もしたことがなく、決まり決まって城の周りをうろうろしたりするくらい。暇な時間も多い。だから兵士たちも文化的な趣味を持つ者が多かった。 「よーしよしよし、どうどう」 「おおーさすがユーク。お前に御せぬエクルスはないな」  白いシャツに黒い厚手のズボン、そしてブーツ。それを着、エクルスと呼ばれる動物の背の上にアスコルトの兵士の少年、ユーク・バロチルーがいた。歳は十九歳。長めの髪を後ろで束ね、小さい尻尾を作っていた。 跨っている動物を声と手綱と体重移動で落ち着かせている。  エクルスはみなさんの世界にもいる、馬と見た目が変わりない動物だった。古くから人と関わってきた動物。戦場でも人を背に長い距離を駆ける。エクルスにも様々な品種があり、今彼がまたがっているのはトゥルグレッドという特殊な品種だった。  あまり戦場向きでもなければ、農耕にも向かないから特殊だ。気が強いけれど脚が細くて怪我をしやすい。 「いやいや、御したんじゃないです。お願いしたんです」  先ほどまで背中に乗る者をさんざん落とし続けていた青毛のエクルスは、彼が乗ってもすぐに暴れた。けれどしばらくすれば落ち着いて今に至る。きょろきょろと周囲を伺い、
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