その二

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「あの時に走っていた仔ね。名前は?」 「ナルです。競走馬名は、父と同じのヴァークロムでした」  その名前に聞き覚えがあったらしく、手を口の前で広げて目を大きく開いた。瞳にこれまでで一番星が瞬く。 「それ、もしかしてヤングヴァークロムじゃない? 青毛の」 「ええ、青毛です。とても真っ黒な身体の、誇り高きエクルスです」 「間違いないわ。ヤングヴァークロムね。あ、父と同じだから分けるために一応ヤングってつけてるの。引退してどこにいるのかと思えば、まさかそんなところに……種の登録もなくて、探そうかと思っていたところなの」 「やはり優駿でしたか」 「もちろんよ。ゴールドステークスの優勝経験もある、名ステイヤーなんだから。マッチレースであのトロトンティにも勝ってるの」  そのトロトンティという名前はなにかで見た記憶がユークにはあった。つまりそれくらいのスターをナルは破っていたのだ。きっとたくさんの金が動いたはずだ。隊長はなにも言っていなかったけれど、どちらに賭けたのか。  ナルに威嚇をされていたということを考えれば、そういうことなのかもしれない。  ユークはちょっとおかしくなった。 「でもそのレベルのエクルスがどうしてレットグレッド生産用に? 話を聞く限り、人気
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