その一

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耳も音を逃すまいと動かしている。でも暴れはしない。 「お前は身体も小さ目だし、やはりライダーになるべきだ」 「僕はアスコルトの兵士ですから」 「兵士にだってライダーは多いぞ。ニマルケルのフィッツフレンドとか、有名人ではないか。他にもアルゴンドン、エライヒ、ウェザビー、ああ、最近はピークもすごいな」 「隊長は本当にエクルスレースが好きなんですね」 「エングリスに住んでいて、エクルススレースが嫌いなやつなどおらん。エングリスはエクルスレース発祥の地だぞ。もう少しすればバンベリーステークスなんだ、盛り上がってくるシーズンなのだ」  エクルスレース、それは訳せば競馬そのものだった。競馬場にて騎手が跨ったエクルスを走らせ、優劣を決める。観客はそれを賭けの対象にしたり、アスリートとして応援したりする。エングリスだけでなく、エルピス全土でも人気のある競技だ。 「バンベリーステークスって名前は知ってますけど、どういう競争なんですか?」 「おい、お前まさか知らないのか? バンベリーステークスはなあ、若いエクルスの頂点を決める競争だ。六月の頭にシュレーにあるイープムレースコースで行われるんだよ。盛り上がるんだぞ、すごくな。観たことないのか? ああ、あるわけないな」
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