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「あ、もしかして種ですか? うちでレットグレッドを作ろうってことですか」
「なにも言っていないのに、よくわかるものだ。そうだ。アスコルトでレットグレッドを生産しようということになってな、こいつを連れてきたのだ。レースでもなかなか優秀な成績を収めたのだぞ。そのせいで高値でな、上が文句を言っておった」
「わかります。トゥルグレッドに跨ったことはこれまでにもありましたけど、その仔たちとは違うものがあります」
「そんなものあるのか?」
「誇りがあります。レースというものを理解していて、先頭で駆け抜けることが勝利であると知っている賢さも持ち合わせています」
ユークは背中からそう感じ取っていた。褒められたことをわかっているのか、そのエクルスは背中の彼を見、両耳を向けてみせた。
「名前は?」
「えっとだな……」
エクルスに汚されてしまっていたズボンのポケットから、一枚の紙を取り出して目を走らせながら言った。名馬の割に彼は知らないのだからやはり賭博の駒なのだ。でもそれは仕方のないこと。
「ヴァークロム。オス、十一歳。父ヴァークロム、母イライザⅣ……」
「父親と同じ名前なんですか?」
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