その一

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「そのようだな」 「簡単につけてくれますね。自分の名前が欲しいだろうに」 「そうだ。繁殖名をつけなければならんと言われていた。御したお前に褒美だ。名前をつけることを許可する」  父と同じ名前では血統表での区別が面倒なことになる。普段ならばまた別の名を考えることはなく、前に「ヤング」をつけたり、後ろに数字をつけたりすることで済ませる。  けれどユークはそういうことをあまり知らないから、 「ナル。僕は彼をナルと呼ぶことにしますよ」 「なにか意味があるのか?」 「特に意味はないです。ぱっと思いついたもので」 「なんだ、お前も簡単につけているではないか」  隊長の指摘に苦笑いで流すユーク。すると彼はうんうん頷き、ナル(競争名ヴァークロム)のプロフィールが書かれた紙に、小さな刃物で彼に綴りを訊き、刻んだ。これでこのトゥルグレッドはナルという名前になった。  そうしてその名前を上の者に知らせるため、その場から去った。ユークにあとの世話を任せて。  
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