第1章

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 ピーター・クラレンスは、変わり者として組織では有名な男だった。任務中に獲得した希少な品々ーー強力な呪文が記された魔法書や即効性の秘薬、精霊の加護を受けたアーティファクト等ーーのほとんどを、王都に帰還するや否や、領内にある馴染みの魔術用品店に売却してしまうのだ。  中には、それ一つで一個師団と同等の力を秘めた、国宝級の絶品もあった。持っていれば、しがない斥候から爵位のある騎士にまで昇任できたはずだが、ピーターが手放してしまったので、軍部がその店に出向き、五倍の値段で買い戻したという。  そんなピーターは、魔法アイテムを自分の性能を上げるためには使わず、魔術用品店に足しげく通っては換金ばかりしていることから、騎士団の連中に「欲張りクラレンス」と呼ばれている。  金というのは、ピーターのような非正規の魔法戦士たちにとって、命の次に大切なものである。正式な軍人ではなく、一時的な雇われ人に過ぎない彼らは、安定した給与ではなく、任務を達成する都度支払われる報償金で生活している。  傭兵稼業に付く者の多くは、仕事に困って兵士になることを選んだ。辺境から出稼ぎに来た人間も少なくない。ピーターも例外ではなかった。
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