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隼は上体を起こして項垂れていた。
体温の上昇による汗とゆっくり流れ落ちる涙が混ざりあって、鉄の床を濡らしていく。
先程の暴走状態はいわば、V細胞が人間に馴染むのに必用な予備作用と言っていい。
その夜よりもさらに馴染んだV細胞は、隼の傷付いた身体を0コンマ数秒の早さで再生させていた。
しかし身体は治癒しても、精神的な傷はそうはいかない。
V細胞が自分の身体に馴染んできていることは、隼もなんとなく理解している。
そしてそう理解したと同時に頭によぎったのは、自分がこのままヴァリアントの力に溺れ、殺戮を繰り返す獣や兵器と化してしまう恐怖。
それは“ヴァリアント”でありながら“人間としての心”を保っているが故の苦悩である。
ふと顔を上げると、そこは一面コンピューターに囲まれた少し広い研究室のような場所。ガラス越しからは見えにくかった景色が広がっていた。
無論、黒い戦闘スーツを着た青年の姿もーー
「予測通り、細胞同士の融合を確認した。“実験終了”だ。さっさと立て」
隼の細胞データを観測してからそう言って、バイザーを外す。
隼を睨み付けるその目はマウスやモルモットを見ているようで、
そのように他人の命に興味を示さず冷酷に扱うことができる辺りは先程、隼に躊躇無く発砲したところからも見てとれた。
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