恐れは戦士に絡む

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隼は渋々立ち上がり、武装や衣服をデータ粒子化した物を身体に浴びることで、即座にその装備を装着できるシステム『Q.C.S.(Quick.Combat.System.)』が搭載されたポッドの中で自分が着ていた作業着を着た後、隣の部屋に移動した。          そこには複数のコンピューターやモニターなどの機材が並んでいた。 隼の身体は恐らくこれらの機械で調べられていたのだろう。 政府の目の前で、ヴァリアントに変身していた人間が倒れたのだ。何をされても不思議ではない。 そして京介が、役目は終えたと部屋から出ていったところで隼の目の前にいる、 『白衣を着た赤髪の男』は話し始めた。 「第2ゲートでの人民の救出、初の明確なヴァリアントの討伐。まずは君が成し遂げたこれらの偉大な功績に礼を言わせてくれ。ありがとう、四宮 隼くん」 その男の声は隼が水槽内で目覚めた時にスピーカーから言葉をかけてきた者と同一だった。 その愛想笑いの裏に隠れているであろう感情は掴み所がなく、椅子に腰掛けながら、まるで台本に書いてある台詞を淡々と読み上げるように、男は言葉を述べた。 「誰かに礼を言われたくてやったつもりはないです」 前述の通り、隼は政府の目の前で倒れた。 従ってこうして連れてこられた施設で話す相手も政府の人間であるだろうと予想しているため、敬語で答えることにした。 「では、あの行動は人を愛するが故の無償の正義感……と、とっていいのかな? それとも只の君の自己満足かい?」 「…………後者、でしょうね…」 隼は少し考えてからそう答えた。 前者と答えるには、人を愛して人を救うがために、人を殺める、というあまりにも矛盾したものを『正義感』として自称するのに違和感を感じた、というのが第一であるが、 もう一つの理由として、隼は自分の全ての行動を『正義感』ではなく『自己満足』と表すことで、自分は後悔していないと自分自身に言い聞かせたかったのだ。
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