蘇る肉体

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ーー2055年 ~日本~ 首都「ラウドポリス」 超高層ビルが建ち並ぶ大都市。 そこに空は無く、黒いドームに完全に包まれている。 都市を照らすのは昼に人工太陽、夜に人工月。 政府がある摩天楼の真上からいつもその巨大な街を見下ろしている。 ラウドポリスα地区Q地点 工科学校前 「21:32」 作業着の袖を捲って、そう時刻が映った腕時計を見る。 そして乱れた金髪の髪を押さえ込むようにヘルメットを被り、 【四宮 隼】は自慢の青いバイクに跨がり、ガスを噴かす。 少し進むと高速道路に入る。 工科学校に通う17歳の隼にはあまりにも当たり前な光景だ。 一刻も早く帰りたい彼は、この高速道路を走り交う膨大な数の車の隙間を縫って進み、クラクションを鳴らされる。 というのがいつものパターン。 しかしこの日は、彼がテールランプでSの字を描くことも、クラクションを鳴らされることもなかった。 「またこれか……」 軽くため息をつきながら、何かを悟ったように言葉を漏らす。 平日ですら車で混み合うこの道。しかし今夜は全くと言っていいほど車両が見当たらない。 彼の中でその理由は明白だった。 『V』 それは、指の爪程の大きさのアメーバ型寄生生物。 寄生された者は、髪は銀色、身体は深い緑色に変色して「ヴァリアント(異形の者)」と呼ばれる、人間を遥かに超越した能力を手にした、自我を失った怪物となってしまう。 そんな新種の寄生生物が8年前に現れてから、 政府は厳戒体制を取り、街で「V」の生体反応が検出された際には市民の外出の抑制を促しているのだ。 今までにも警告は何度かあった。 しかしVその物の発生率がまだ少なく、大事には至っていなかったのだが、 ここ最近は少し警告が増えている。 隼のため息はそれへの物だ。 もし、本当にヴァリアントの出現が多発したのなら、 この街は…… 彼は10歳以前の記憶がほとんど無い。 昔の事なので忘れている、とかではなく、 本当にぽっかりと穴が空いたように無いのだ。 そしてその空いた穴を埋めてくれる人間も、もういない。 つまり、0~7歳までの戦時中の記憶や、8年前にVが発見された当時の記憶も無い。(戦争があった事は知っているが) 無いからこそ、解らないからこそ、不安なのだ。 今までの日常が変わってしまう。 その惨劇の景色が計り知れないから……
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