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まだその目線に気づいていないヴァリアントは、尚も破壊行動を続け、親子3人が乗った車に手を掛ける。
その車は先程の爆発で壊れてしまい、エンジンをかけることはおろか、親子たちは車から出ることすら出来ない
泣き叫ぶ息子を抱き締めながら静かに涙を流す母。
父は一人、母子に背を向けてヴァリアントと顔を合わせる。
「お、お前らは父さんが…守るからな……父さんが…」
目を潤ませる父を気にする事もなく、ヴァリアントは車内に手を伸ばそうとする。
「くそぉ……!」
思わず目を閉じる父の鼓膜を鈍い音が震わせた。
しかし、自分の身に痛みは感じない。
もう一度開いた父の目に写っていたのは、
頬を砕かれるヴァリアントの姿と、
それと同じ色の、握りしめられた拳。
吹き飛ばされるヴァリアントに一瞬、父は呆気を取られたがすぐに我に返る。
「もう一体……?」
ヴァリアントに殺されかけた親子を助けたのは隼だった。
だが、普通の人間にしてみればヴァリアントがもう一体現れただけのことだ。
そのもう一体にも襲われる、と考えるはずだろうが、
不思議な事に、父は隼から殺気や恐怖を感じていなかった。
隼は開かなくなった車のドアをまるでプラスチック模型を壊すように軽々と外す。
すると父は、先程まで自分が恐れていた者とほぼ同一の個体に、冷静で丁寧に、かつ思いやりの込もった口調で言葉を発した。
「ありがとう……本当に…」
見ると、父の目からは涙が零れていた。
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