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短い夏が終わり、学校とバイトに忙しい毎日。
ママから突然電話がかかって来た。
「どうしたの?」
『梨緒今日バイト?』
「んーん、今日は休みだけど…どうかした?」
『うん…ちょっと話したい事があって。今日うちに来られないかな?』
「わかった。じゃあ夕方行くね。あ、私アレが食べたい。ウズラの卵が入ったコロッケ!」
『ふふっ、わかりました。気をつけて来てね。』
ママの話…、ついに来たか。
多分大川さんと結婚するんだろうな…って思った。
大川さんはママが一人で私を育ててる間、ずっとママを応援してくれてた理解者だった。
私がいたから家にも呼べなかったみたいだし、何度か会った事はあるけど、いい人だった。
「ジェイ…」
「ん?」
「人を見る目はある?って言うか…悪魔の目から見て、んーと、悪い人かどうかとか…見極められる?」
「なんだそれ。」
「ちょっと見て欲しい男の人がいるの。その人が相手を幸せに出来るかとか…見て欲しいの。」
「梨緒…お前を幸せに出来るのは俺だけだ。そんなの見なくてもわかる。」
「ちっ、違う。私の相手じゃなく…ママの…」
「ママ…結婚するのか?」
「うん…多分。だから見てくれない?」
「わかった。」
学校へ行く支度をしていると棚にあるCDに目が留まった。
タナトス…?
「こ、これ…ジェイ?」
「ああ。俺達が出会ったのはタナトスが日本に来た時だ。」
私…バンドの人を好きになって…出会ったの?
なんとなくママと同じだと思うと少し嬉しかった。
「ジェイ、私のママね、バンドの人を好きになって…たった一度だけ…好きな人と夜を共にして…私ができたの。凄いでしょ。」
「……」
「ジェイもバンドの人だったなら、やっぱりファンとそういう事ってあったの?」
自分で聞いたのに、少し嫌な気分になった。
「…ごめん、やっぱり答えなくていいよ。」
ジェイが私の腕を引っ張るとぎゅっと抱きしめた。
「嫉妬したのか?」
「ち、違いますっ!!」
クスクスとジェイが笑う。
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