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高校1年、秋。
知り合いが1人もいない高校生活は最初こそ不安だったものの、今ではそこそこ友達もできた。概ね順調と言えるだろう。
「はーるーかっ!!」
突然、後ろから衝突のような抱擁を受けた。シャンプーのかすかな香りが一瞬鼻をくすぐった。
「・・・灯、重い。」
「わ・・・!ひどい・・・!私泣いちゃうよ!!」
ごめんごめん、と笑いながら振り返る。灯は高校に入って最初にできた友達だ。ふわふわとした雰囲気、人懐っこい笑顔。明るくて可愛い、とても良い子だと思う。
「遥もう帰るでしょ?一緒に帰ろ!」
「あー・・・ごめん。今日委員会の仕事あるんだよね・・・。」
苦笑混じりに答える。私も一緒に帰ってしまいたいのだが、ついさっき先生に委員会のことを伝えられた。仕事を終わらせないと帰れない。
「うぅ・・・そっかぁ、大変だね。遥って編集委員だっけ?頑張って!」
「うん・・・ごめんね。ありがとう。」
またね!と手を振る彼女を見送って教室に戻る。
もう私の他に残っているのは1人だけだ。
窓際の1番後ろの席にポツンと座る矢崎くん。
編集委員はクラスに2人ずつ。不定期で発行される、学校内だけの小さな雑誌を作るための委員会だ。
前回一緒に残った時はただ黙々と自分の担当記事を書いていればいいだけだったが、今回はクラスごとに企画を考えて書かなければいけないらしい。
・・・矢崎くんと相談・・・しなきゃな。
少し緊張しながら、矢崎くんの隣の席に座る。
「・・・私達で企画決めるんだってね。矢崎くん、何か良いアイデアある?」
目を見て話すことができない・・・。
矢崎くんとは今まで事務的な会話しかしたことがない。クラスメイトと楽しそうに騒いでいるところは見たことがあるから、別に暗い人という訳ではないと思うけど・・・。
「んー・・・・・・いや、なーんにも思いつかないわ。小野さんは?」
わざとらしく腕組みをして答える矢崎くん。
「わ、私も。下書きまででいいって言ってたけど、難しいよね・・・。」
「もっと早く言ってくれれば良かったのになー。」
「うん・・・ひどいよねー・・・、あはは・・・。」
静かな教室に、2人の声だけがじわりと染み込んで消えていく。閉められた窓の外から、かすかに部活動の声が聞こえてくる。
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