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「あ、どうも」
葵は頭を軽く下げて、管理人に挨拶をする。
セミロングの茶髪にパーマがかかっている優しくて可愛らしい管理人である。
トレードマークはレンズが分厚い丸眼鏡。
外せばもっと可愛いのに、と葵は思っていた。
彼女は葵だけではなく、他の生徒とも仲良く話している姿を見かける。
それほどまでに、彼女は慕われているのだ。
「いつもは門限間際に帰ってくるのに」
「あはは……」
愛想笑いを浮かべる葵に、管理人も分厚い眼鏡の向こうに笑顔を作る。
そこで、葵は一つ思いついたことがあった。
「あのー、さっきここを通った生徒のこと知ってます?」
「さっき……あぁ、メゾちゃんね」
管理人ならば、もしかしたらメゾのことに関する情報をしているかもしれない。
名前を知っていたことから、葵の期待も高まった……だが、
「知っているけど、知らないわ」
「どういう意味ですか?」
「名前は知っているけど、その他は全然……彼女、いつも真っ直ぐ学園から帰って来て、そのあとは寮の部屋から出てこないのよね」
「出てこない?」
「うん、遊びに行ったりとかはしてないみたい」
学園の寮には門限がある為、外出の管理がされる。
寮の門にて機械が自動的に外出している生徒をシステムが管理しているのだ。
門限まで外にいる生徒は誰なのか、管理人室にあるコンピュータで解るようになっている、と葵は聞いたことがある。
つまりは、外出の状況が管理人には解る。だから、彼女が言っている情報は信憑性が高いことにもなる。
「夜、とかはどうですか?」
「夜は特別な申請がいるでしょ? それを出されたことはないわね。夜はそこも鍵を閉めちゃうし」
門限以降は外出には特別な申請が必要になり、簡単には出て行くことができない。
管理しているシステムは経費の問題なのか、停止してしまうが、寮に入る扉も門も鍵が閉まり出て行くことができない。
ちなみに鍵は管理人が持っているし、寮の扉までには管理人室の前を通ることになる。
では、メゾの怪しい行動とはどのように行われているのだろうか、と葵が考えようとしていると――
「私としてはもっと遊びにいったりして欲しいんだけどね。友達とかちゃんと出来たのかしら……やっぱりルームメイトがいないというのはネックだったかなぁ」
思わぬヒントを管理人が溢してくれた。
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