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「ご注文のコーヒーとシフォンケーキになります」
「あ、どうも」
マスターはそう言って、葵の座るテーブル席に注文した品物を置いた。
彼女がそれに応えると、彼は一礼しカウンターへと戻る。客は彼女しかいないが、それでも仕事があるのだろう。
葵は寮までメゾを尾行した後、街へと来ていた。
ふらり、と歩き回って行き着いたのがお気に入りの喫茶店である。
ここのシフォンケーキが美味しく、彼女は最近頻繁に来店していた。まだ、友人達にも教えていない彼女のちょっとした秘密基地でもある。
「さて……」
そう呟き、自身に起動をかけると葵はコーヒーを一口含んだ。
少し苦く、だが雑味はない。それ以上に香りが高く、脳は大きく深呼吸したかのように気分と思考が落ち着いていく。
街を歩いている間、彼女はメゾについて得られた情報をパズルのようにくっつけては離し、それを繰り返した。ピースが元々少ないので、形を成すのは簡単だったが絵は未だに浮かんでこない。現状では不完全な状態で完成なのだ。
「外出していない」
一つ目のピースを置く。寮の管理人が教えてくれた情報だ。信頼度は高い。
この情報だけをティオルラ持っていくことも一考したが、すぐに却下した。彼は、何かしらの可能性と考えがあるから探ってくれ、と葵に依頼したのだ。
この情報だけを持って、自身の回答とするのはあまりにも早計で稚拙である。
「怪しい行動」
もう一つピースを置いた。先程にも出たティオルラからの依頼である。
彼もまた寮の管理人から情報を得ているかもしれない。それでも葵に依頼した理由――いや、それは今関係ない、と彼女は判断した。その理由は無限に考えられ、答えは見つけられるものではない。
ならば、素直にメゾの怪しい行動を考える。学園内では、一先ず無かった。
もう少し監視をするにしても、この点を重点に考えるのは視野が狭すぎる。
そこで――
「ルームメイトがいない」
最後の情報である。再び寮の管理人がくれた情報。これがあると、大きく『行動の範囲』が変わってくるのだ。
つまりは、
「夜。それも、深夜に外出してる可能性がある、か」
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