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「悪趣味」
「協力者に言う言葉か、それ」
じとり、と睨む葵に九頭も睨み返す。
その視線の方は軽蔑で、もう片方は心外だった。
「別に盗聴やら盗撮やらするわけやない。さっき、お前が言った通りや」
「へ?」
「寮にいなければならない時間帯に、そこ以外にいることが解ればいい」
「それで発信機?」
「せや、証明は理論的で納得性のあるもの……つまりはデータがあれば完璧や」
こういうところは、やはり理系的な考えだ、と葵は思った。
九頭という男は間違いなく理系である。当初はその言葉だけで、冷静で嫌な人間のように勝手な勘違いをしていた時期がある。
だが、その考えは彼によって覆された気がする。
「そもそも、勘違いしたらアカン」
「何がよ?」
「そのメゾって奴がどんな奴かは知らんけど、お前がすることは暴くことやない。証明することや」
「……どういうこと?」
九頭は真っ直ぐに葵を見つめる。そこには先程の感情は籠もっていない。
もっと別の何か、だ。
「確かに、怪しいと学園側が認識しとるかもしれん。せやけど、学園側が言っとることを鵜呑みにして最初から決め付けたらアカン。もしかしたら、学園側の考えとることが全くの検討外れかもしれん。メゾって奴は関係ないかもしれん。葵、お前がすることはメゾって奴を怪しいと証明するだけやない、その逆を証明することでもあるんや」
「…………」
「データは証明する上では強力な道具や。使い方を間違えるなよ」
「間違える?」
「きっとデータを集めれば、お前がせなアカンことは終わる。証明は終わる。だけど、いくら正しいデータを集めても、歯抜けで、締めの言葉を間違ってたら『納得性のあるように見える証明』に過ぎん。それが使い方が間違っとるってことや」
「……何が言いたいの?」
「それは自分で考えや。発信機は一週間ぐらいで作るわ」
そう言って九頭は席を立つ
「一週間って……忙しいんじゃないの?」
「忙しいからって蔑ろにして良い案件やないやろ? そのメゾって奴の為にも。更に友達の頼みって条件が加われば、俺の中の優先度は高なるねん」
「……ありがとう」
その言葉に彼は背を向けながら小さく手を振って応える。
理系的な考えを持ち合わせているものの、誰よりも人間くさい男――だからこそ、葵は九頭という人間を嫌いになんて思ったことはなかった。
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