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「そうよね……」
発信機を見つめ葵は一考する。
やはり考えられる案の一つは本人の身体に直接貼る事。
しかし、それは接近と相手に触れるというリスクが伴う上に見つかる可能性も高い。
ハイリスク、ハイリターン。後者は欲しいが前者はいらない。
その案を捨てると、次に考えられるのは――
「身につけているもの……かな」
「それが妥当やろうな。けど、その相手さんは常に身につけてるもんとかあるか?」
葵はメゾの姿を思い出す。
まだ数回だが、彼女の特徴で印象に残っているものは――あった。
「……ヘッドフォンとかどうかな?」
勿論、赤いネックウォーマーも候補にはあがった。
だが、何故か葵にはあのヘッドフォンが気になったのだ。
授業の時は首にかけ、それ以外は耳につけ、常に一心同体の存在。
「悪くはないけど、それって寮の門限外でも着けとるやろうか? 目立ちそうやから外しとるんやないか?」
「うん、その可能性はあるけど……でも、誰にでもさ、それを持ってないと少し不安になっちゃう物ってあるじゃない? 心の拠り所のような、自分だけのお守りみたいなやつ。勘だけどさ、彼女にとってあのヘッドフォンは彼女だけにしか解らない用途で使う大切なものなんじゃないかな」
「ふーん、なるほどね。まぁ、試しにやってみるでも良いかもな。そこやったら見つかる可能性は低いし、とりあえず貼って様子見てみたらええやろ。成功やったら万々歳。失敗やったら別のところを考えたらええ。発信機はまた作るわ」
「……ありがとう」
「ほんで、相手さんのこの後の予定は?」
「確か、最後に授業を一つ受けてるはずだけど」
葵もこの一週間をぼけっと過ごしていたわけではない。
メゾが受講している授業ぐらうは完全に把握していた。
「ほな、早速行こか」
「貼りに? でも、なんで九頭も一緒に行くの?」
「アホ、お前はこれからも相手さんと接触する可能性があるやろ? 怪しまれる行動は避けた方がええ。その点、俺はおそらく接触する機会なんて今後は皆無や。発明したもんの責任として、それ貼って、ちゃんと機能するかまでは持ったるよ」
そう言って九頭は席を立ち上がる。
ここで彼の善意を断ったら、喧嘩になるだろう。
全くもって面倒見の良い男だ、と溜め息と共に葵は反論を諦めた。
だから、彼女が言わなければならない言葉は一つだ。
「甘えさせてもらうね」
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