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「あぁ、嫌だ……」
そんなネガティブな言葉が溜め息と共に漏れてしまった。
定期戦が終わってから暫く経過した日のことである。
葵は、とある教員に呼び出されていた。
――けど、何でここなんだろう?
素朴な疑問が彼女の頭に浮かぶ。
相手が指定してきた場所は職員室ではなく、第三会議室と表示がある小さな部屋だった。
一度、何かの用事で荷物を運んだ記憶があるが、長机が二つほど揃って置かれ、周囲に六個ほどの椅子が置いてある程度の広さだ。
だけど、何故ここなのか。
それが、葵には解らない。
小さな部屋に一人の女子生徒に教員。しかも、その教員が男性とくれば妖しい勘繰りをもしてしまうものだ。
だが――
「無い! それは無い!」
強い否定を発して、自分で考えたことにも関わらず葵は笑ってしまった。
何故ならば、今日呼び出した相手は――
「五月蝿い。早く入れ、馬鹿者」
いきなり会議室の扉が開き、開口一番にその教員は言った。
褐色肌に銀髪の若い教員。彼の名前は――ティオルラ・ターンナイト。
多くの授業を担当し、生徒からの人気も高い。それは彼の授業が面白く、解り易いからだろう。
だが、彼には大きな特徴、いや、欠点が一つ。
「貴様ごときが俺に呼ばれたのだ。だったら、先に待っているのが当然だろう。何故、そんな単純で簡単なことが出来ない? 出来ないほどの馬鹿なのか? 元々小さい脳みそが形のないほどに溶けてしまったか?」
マシンガンのような毒舌。彼は生徒であろうが、教員であろうが、知り合いであろうがなかろうが、毒を吐く。
「早く入れ。お前と話す時間すら惜しい」
「……はーい」
葵は反論せず素直に言うことを聞く。
もちろん、苛立ちは彼女の中にある。だが、口喧嘩で勝てる相手ではない。
それを行って、負けたときに感じる敗北感が追加されるぐらいならば、苛立ち一つを抱えて素直に従った方が、まだ良いと思ったからだ。
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