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その言葉を聞いて、葵の記憶の断片がはっきりと形を現した。
――そういえば……。
それは一人の男性教員――百期生の学年主任であるアルフレッド・カヤックが彼女に言ったことだった。
「代表戦の後、勝っても負けても相手校の代表との交流会があるから必ず出席するように。俺はその後の男子の代表戦の解説に行かないと駄目だから、顔は出せないけど。お前は絶対に出席だからな」
確かに、そう言われた。
だが、その男子の代表戦、というのがいつも一緒にるメンバーが出場することになっており、それが見たいが為に完全に忘れていたのだ。
そうなると、当然の疑問がある。
交流会はどうなったのか、である。
「あの……その……忘れてました。そのー、交流会はどうなったんですか?」
制服の中で汗をかいていることが、葵は解った。
それは後ろめたさと自身の弱みが露呈したことが要因である。
「俺がフォローしておいた。相手校の代表をブッ飛ばしておいて、その後の交流会まですっぽかしたとなると、相手も怒るだろうし、両校の関係にも亀裂が入る。まして、負けたから会いたくないなら、百歩譲って理解出来ても、勝った方が来ない、というのは有り得ない話だ」
「ですよねー」
「貴様は道で拾ったものを食べて、体調を崩し、トイレで嘔吐を繰り返していることを伝えて、とりあえずは相手方には納得頂いた」
「それ、私は納得できないですけど」
「何か言ったか?」
「いえ、何も。フォローありがとうございました」
納得は出来ないが、それでも相手校との問題にならなかったのはティオルラのおかげである。
不本意ではあるが、彼女は頭を下げた。
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