第1章

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 資本主義社会を引鉄として苛烈な社会競争が発生し、国家単位では地球の存亡が危険視される程の破壊力を搭載した近代兵器が氾濫。散発する戦争、テロ。生き馬の眼を抜く程の経済大戦、物価の高騰、食糧危機、自然破壊、厳罰的且つ画一志向な社会教育、普及したテクノロジーの利便性から希薄に陥り行く人間の生存感覚……。  識者に依っては、一方論では在るがこんな指摘を為していた。巷で横行する異常犯罪や社会問題は、上述の要因が民衆を刺激しつつ、その苦境からの逃避として向けられた高度なゲームやアニメ、インターネットと言った二次元的文化に責任の所在が有ると。  過剰な暴力や猟奇的、性的場面が悪影響源と総括され、これ等の娯楽が若者の現実感を空虚にさせ犯罪を助長していると云う。他に電子通信技術が飛躍的進化を遂げ普及するが、匿名的遣り取りもまた人間関係の本質から逸脱しており実際的ではないと危険視した。  現実逃避の経路を創出している二次元文化。それに依って非現実や妄想を現実世界と混同、又は判別出来ぬ若者達が増加し、問題を群発させる……。確たる根拠も無い抽象論だったが、スケープゴートを渇望している大衆はそんな責任転嫁を図れる対象の出現に喜悦した。或る種のテクノロジー、サブカルチャーは槍玉に挙げられ、規制される方向へと助長して行ったのだ。 勿論、病院等の療養施設では患者に対して心療療法、自己催眠、薬剤投与、整形手術、カウンセリング等の療法を施行してはいた。 ―だが。具体的な解決策は発見され得ない侭、精神病患者数は鼠の繁殖を想起させる如く増加の一途を辿り、遂には極点に到達する。一般的に健常者を正常に対人関係を図れる者と定義するならば、精神病患者数がその正常層を超越してしまったのだ……。  ここで逆転現象が発生する。偏頗で在った筈の精神病患者達だが、民主社会に於いては多数派こそが勝者……。 ―つまり、対人恐怖こそがこの世界の常識に変貌してしまったのだ! 社会に於いて『常識』とは『掟』と同義語に成る事が暗黙の了解でもある。こうして、本来正常と云う範疇に安住していた人間達は自然淘汰されて行った。
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