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しかし、それでも背後から接近して来る影を振り切れている気がしない。拡散していた外部者の足音も、今では一方向から鳴り響くものだと断定出来た。その歩調には惰性や逡巡が欠片も無い。或る強靭な意志や目的を、確信を持って踏み締めている―、そんな一本気な行進の足音なのだ。
背後から迫り来る人間は僕と言う存在を感知している。断じて地下下水処理場の作業員等では無い、明らかに僕の捕獲を目的とした警察からの追跡者だ! しかしGPS機能を打ち捨てた人間を、こう迄精密に追尾出来るものなのか? 警察官等には、一般市民が装着するヘッドギアの基本機能に加え特殊防犯機能が複数内蔵されていると聞き齧った覚えは有るが……。
この正確な追跡もそのヘッドギア機能の賜物とすれば、分岐路をわざと迷走して見せた所で何の撹乱にもならないと言う事か……。
―不味い。徐々に追跡者との距離が縮まって来ている。奴等は確実にヘッドギアの特殊機能を駆使して僕を追尾している、と実感させられた。その上、仕事柄彼等は相当に訓練された精鋭の筈だ。何の武器も無く丸裸同然の上、数日の逃亡劇で疲弊している僕はあらゆる条件で不利だった。
段々と奥まった場所以外の選択肢が無くなって行き、言い様の無い焦燥感が全身を貫き始める。
行き止まりだと一巻の終わりだ……!
異臭は満ち、その不快さに鼻を顰めつつ足だけは停めない様にと前進し続ける。しかし閉塞する空間のせいか焦燥感は益々と煽られ、胸の鼓動が再度加速し始めた。心臓が際限無く膨張し、脳裏で冷や汗を掻き、手足の末端迄が恐怖心で震え始めるこの感覚。
不味い、不味い、不味い……!! この侭では呆気無く捕まってしまう。僕は傍目からしても不様な程に惑乱していた筈だ。
―そして、薄闇の中で、更に愕然とする絶望的な事実が立ち塞がった……。
暫く思考停止して、僕は呆然と立ち尽くす。何かの要衝か警備システムなのか、眼前には行く手を遮る様に鉄の扉で厳重に封鎖されていた……。横手にはカード認証装置やコントロールパネルらしき物が設置されている様だが、素人の僕が操作等知悉している筈も無い。仮に操作方法が解った所で、作業員でも無くヘッドギアすら装着していない僕が、認証識別を無事に通過する事等土台不可能だ……。
背後から迫り来る足音の音量が段々と高まり、明確に聞き分けられる程接近して来ている事が感じ取れた。
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