第1章 #4

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第1章 #4

 大音声の騒乱から各人の会話の逐一迄は聴き取り切れない。未だ事態を把握出来ない青年係官は暫しの間、茫然と眼前の光景を見遣っていた。しかしその刹那、自身の職務と使命をはたと思い直し、突如発生した異常事態の現場へと性急に疾駆し始めた。 「お客様方、落ち着いて下さい! 調査致しますので道をお空け頂けますか!!」  係官は慇懃さを失しない様に意識しながらも、どよめく喧騒を掻き消す為にと叫声を張り上げた。そして立錐の余地も無い人垣を半ば乱雑に通過する中で、ふとした瞬間に眼前が開かれた。勢い余り、係官は前方へ倒れ込みそうになる。最前列に位置する群集を突き抜けたと気付き、彼は反射的に両手と片膝で床面を突き体勢を立て直した。 ……しかし何事かと傍観する集団の最前へ踊り出ながらも、結局は係官自身も呆然自失と立ち尽くす他は無かった……。  問題の大型テレビジョンを見上げると、巨大ディスプレイから次々と大写しにされるものは一般市民と思わしき者達の顔、顔、顔……。そう、本来政府直轄の基で厳重に管理保護されている一般市民の個人情報、素顔の撮影写真が次々と映写されて行くのだ……!それも個人情報の他、現在チェックゲート内の個室で素顔の撮影を受けている一般利用客達の光景迄もがメインロビーの大型ディスプレイへ漏洩し始めている……。  呆気に取られつつも、係官の脳裏では不測の事態を引き起こした張本人が誰か、既に確信していた。機械の不具合で、この様にメインロビー内の巨大ディスプレイへ個人情報の流出が起こると言う事はまず考え難い……。 (―エスだ! 奴とその一派は現在施設内のどこかへ潜伏しているのか、もしくは遠方からのハッキングに拠る妨害攻撃をして来ているのか……。実際は量り兼ねるが、奴等が厳重に管理されている筈のシステムデータベースへと介入し、個人情報を流布していると言う事だけは間違い無い……!)  その瞬間、居合わせた者達の緊張を益々煽り立てるかの様な、冷厳とした調子のアナウンスが施設内へ鳴り響いた。 『―不穏なガスが検知されました。空気濃度を低下させ、後に施設内に於ける酸素の供給を停止致します。施設内をご利用のお客様は職員の指示の下、速やかな避難をお願い致します……。繰り返します。不穏なガスが検知されました……、空気濃度を低下させ……』
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