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巨大ディスプレイへ個人情報が流出されている現状だけでも当事者達は混乱しているのだが、更なる追い撃ちを掛けるかの様な不穏なアナウンスに誰もが当惑する様相を見せた。
……そして次の瞬間、居合わせた者達誰もが我が目を疑った。
日中の燦々たる陽射しを四方から取り込む様に設計されている空港内部だが、透明な窓ガラスの内外両面へ、灰色の防火シャッターが一斉に降り始めたのだ。
遥か見晴るかせていた管制塔や滑走路の景観が、突如硬質なシャッターで遮断される。
瞬き程の速度で、施設内は一転して夜の帳が降りたかの様に一面の薄闇と化してしまったのだった……。
重厚な防火用隔壁もほぼ同時に作動し始め、間近に居た空港利用客達は泡を食った面持ちで脱出を試みる。しかし、遂には厳重に閉鎖されてしまった鉄扉を前にして虚空を仰ぎ、腹立ちを紛らわし切れず拳を叩き付けるのみだった。
*
……。非常用電源により施設内の各照明は程無く復旧したものの、通信装置の類は一切が使用不能だと判明。居合わせた被害者達の動揺は、最早歯止めの効く所ではなくなってしまった。係官は騒乱を鎮める為に施設内を奔走するが、大所帯を宥めるにも最早限界を来たしている。
「一体どう言う事なんだっ!」
「早くここから出してくれ、あんた等はこの空港の人間なんだろっ!!」
空港利用客達が掴み掛からんばかりの気勢で口々に詰め寄って来る。係官も流石にその迫力には気圧されたが、内心では叉別の思索を廻らせてもいた。
(現状、これ等がエスの仕業と判断している者は極く少数の様子だ……。ここでその推測を伝えた所で皆は益々戸惑うばかりだろうが……。どうする……?)。
そして先程のアナウンスを受け通風孔の状態を確認する為に立ち働いていた職員と物見高い客達が、驚嘆の声を次々と挙げた。彼等の声は、換気が停止された無風の施設内から更に酸素自体が除去され始めた事実を明らかにしていた。施設内全体が無酸素状態へ陥った後の惨状を想像し、被災者達の動揺は極点へと達する。
「嫌だ! 死にたくない!!」
「誰かここから出してくれっ!!」
不安と悲鳴が木霊する叫喚の中で、係官は唯一平静を保った侭状況を推察していた。
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