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(エスの意図は何だ……? 我々を閉じ込めて、その後何を謀る? この侭居合わせた人間達を無差別に窒息死させるのか。それとも監禁した状態を利用し、我々を人質として政府への交渉材料に用いる気か。もしくは外界の警備や一般市民の存在が手薄になった事を利用し、パイロット達を脅迫する形でハイジャックし海外へでも逃亡するか……。エスよ、何を、何を狙ってる……!?)。
係官は推理小説に於けるトリックの解明を読み急ぐ様に、固唾を呑んでエスの動向を待ち望んでいる……。
(空港管理下の制御システムにも無論厳重なセキュリティが敷かれている。防御プログラムも乗り越え環境装置を操作するとは、並みの手練れではない。アクセスの痕跡を消してはいるのだろうが、何かの形でエスの現状や足跡を辿る事は出来ないだろうか? そして、エス自身はここに潜伏しているのかどうか……)
係官が思索を紡ぐ刹那、施設内の一角から吃驚の声が挙がった。彼は思考を中断され、反射的に声の方角へと頭を振る。緊張下に耐え切れずヒステリックを起こした者の叫声かと思いきや、その大声の主は予想だにしない呼び掛けをし始めた。
その男性は遠方からでも人目を惹く程に派手な服装で、無数の安全ピンや刺々しい鋲が留められたライダースジャケット、タータンチェックのボンテージパンツで全身を包んでいる。その見るからにパンクスと言った風体の男は大勢の耳目が惹けた手応えを得ると、眼前に置かれた大型の貨物を頻りに指し示した。そして、窮地を脱する一助を発見したかの様な嬉々とした面持ちで彼は必死に訴え始めた。
「皆、見てくれ! この段ボール箱の中に大量の酸素スプレー缶が入れられているぞ! 空調が効かない様だが、暫くはこれを使えば凌げる!!」
その指摘を端緒として、堰を切った様に利用客達の意気が沸き上がった。彼等は餌を求める蟻の行列の如く現場へと群がり、叉も施設内は騒乱に満ち始める。
「これは人数分有るのか!?」
「俺に、俺に寄越せ!!」
「子供を先にして! 私の子供を助けてよ!!」
我先へと急ぐ様に、居合わせた利用客達は一斉に酸素スプレー缶へ手を伸ばす。
―そして、遂には骨肉相食む様な争奪が始まった……。
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