第1章 #5

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 途端に当階全体で、呼応する様に全員からの気勢が挙がった。               *  ロイトフの求心力は矢張り並々ならぬものがあり、鼓舞された隊員達は先程迄の萎縮が嘘の様に血気を滾らせ始めている。士気を回復させた複数隊は意気揚々と追随を始めていた。エスが手薬煉を引いて待ち構え各所で戦力が減退させられて行ったとしても、この圧倒的人数差ならばいずれは確実に追い詰められるだろう。 ……。  後方部隊はその矢先、何かの配線が途切れる様な雑音が耳を掠めた様に思い立ち止まった。 ふと最後尾の者が振り返ると、『配電室』と表札が掲げられた扉の隙間から黒煙が漏れ出でている事に気付き、悲鳴にも似た声を挙げた。その切迫した呼び掛けから前列を行く隊員達も足を停め、何事かと首を擡げる。  そこでは噴出する黒煙が扉前面を覆い始め、その向こう側から火花が散る様な不穏な物音が微かに立ち始めていた。何かが焼け焦げる様な異音、異臭がヘッドギア越しに伝わって来る事を感じ取り、 付近の隊員達が思わずドアノブへと駆け寄る。しかし彼等がノブへと手を掛けるか否かの刹那、瞬く間に火の手が周囲の壁迄をも伝い始めてしまった……!  隊員達は思わず目を見張り後退った。火災の原因……。しかし、例えば電気系統の故障で出火した偶然の事故、等と解釈する者は当然現場には誰一人として居なかった。エスに由る妨害工作の一環である事を瞬時に直感した一隊は、装備から携帯消火器を取り出し即座に鎮火を試みる。最低限度の防災用具として装備していたガンタイプの消火器を、火の手の脅威を受けない遠方迄へ後退した隊員達が次々と発射して行く。  この消火器の弾丸には消火薬剤が詰められており、弾を発射して炸裂させる事で内容物を散布させるのだ。この消火器はレーザーシステムで座標を精確に設定可能であり、少量の弾数でも初期段階の火種ならば充分に鎮火可能な筈だった。  しかし隊員達はヘッドギアの視覚機能と連動させ消火すべき対象位置と射撃範囲を的確に被弾させ続けているものの、燃え盛る火炎は一個の獰猛な野生動物として生命を得たかの様に容赦無い気勢を挙げる一方だった。最低限度の装備では完全消火が不可能だと判断されると、忽ち隊員達の間に戦慄が走った。 (今度こそ、立体映像や立体音響に由る誘導工作では無い……)
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