第1章 #5

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『周辺温度の異常をお伝えします……。現在、半径10m内の室内温度が上昇し続けており、事故や人体へ悪影響を及ぼす危険性が感知されています。本ヘッドギア装着者及び周辺の方々は、この侭ヘッドギア内部の避難指示へ従い速やかに行動をお願い致します、繰り返します……』  ヘッドギアの熱感知機器がその度数をどんどんと上昇させ、人体への危険や周囲での火災等に及ぶ可能性を警告し始めている。警報は冷厳ささえも湛え機械的に反響し続け、隊員達の内心を千々に掻き乱す。何由りも、ヘッドギアや特殊防護服すらも通り越して身体へ伝わり来る猛烈な熱気や煙霧は紛う事無き現実だった。排気が不完全だとしても、一定濃度迄なら煙霧から立ち昇る有毒ガス等もヘッドギア内部の防塵・防毒機能が自動的に作動し微分してくれる……。  だが、猛烈な熱風に包まれ冷静さを保ち続ける事は訓練された隊員達にも至難の様だった。隊員達は自然と、更に悪化し行く状況を思い描き臆気に晒される……。超高層ビル内部が巨大アトリウムとして設計されていると言う事実も、現場へ居合せた隊員達の恐怖心に拍車を掛けた様子だった。 ―超高層ビル建築の際は、洗練された景観を強調する為にアトリウムを導入する事が慣例的だ。だが皮肉な事にその天空を見晴るかせる様な吹き抜けた空間は、火災が発生した際には事態を悪化させる煙突の様な役割を担ってしまう。過去に於ける一連の大規模な火災事故を受け既に原因は究明されているのだが、低階層で火災が発生したとしても、瞬時に火勢や煙霧は建造物全体へ流動、拡散し被害を拡大させてしまうのだ……。ゲートタワー内部は低階層から中階層迄が飲食店やアパレルショップで占められており、目下隊員達が進行している高階層もオフィス区域として様々な精密機器が犇めいている。 そう、爆発的な火種となる要素は幾等でも連想させられるのだ……! 内部で大爆発が発生すれば都市を象徴する巨大ゲートタワーの倒壊どころか、周辺一帯が焦土とすら化すかもしれない……!!消防活動を行う部署は既に市街全体で散発している暴動や火災を鎮圧する為に出動し、手薄となっている筈だ……。
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