166人が本棚に入れています
本棚に追加
当然だが、人間のクローンを創ることは倫理的に許されていない。しかも敬虔なカトリックである愛藺には、まさに神をも畏れぬ所業のように思えた。
「その研究ファイルを見て……怖くなった。試作段階のクローンには、何体か創られていたんだけど、いずれも僕の『自我』がプログラムされていなかったんだ」
「どういう意味?」
「兄さんのいうことしか聞かない、都合のいい僕を創っていたんだ。そうすれば本当の僕みたいに鬱陶しくないでしょ?」
自嘲するような口元だけの笑み。
「だけど兄さんは、途中でクローンの製作を断念していた。たぶん完璧なものが創れなかったんだろうね。……そこで僕自身をつくり変える方法に切り換えた。その結果が今の僕。どうやらまた失敗だったようだけどね……」
愛藺はいよいよ混乱を極めてきた。
最初のコメントを投稿しよう!