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称賛を込めて答えると、緊張で強張っていた表情が、ぎこちない微笑みに変わった。
「良かった。……それじゃあラマ島へ急ごう。早くこの場を離れないと本隊が来てしまう。いま何時?」
「えっと……十時半になるところ」
携帯の時計を見て答えると、凱悦は再び厳しい表情になった。
「ラマ島行きの最終フェリーは十一時だ。急がないとまずい。行こう」
タクシーを拾うべく、大通りへ出て人混みに紛れる。
目映い極彩色のネオンと熱く湿った空気、有害そうな排気ガスの匂い。
そこには、いつもとなんら変わりない香港の夜が広がっていた。
平日のせいか、歩道は早めに家路につく人々で混雑している。ただでさえ歩きにくい状態なのに、すれ違う女性たちが凱悦に見とれて立ち止まってしまうので、愛藺は何度も足を踏ん付けられたり、肩がぶつかったりして散々である。
タクシー乗り場へ着いた時には、もう揉みくちゃ状態で、息が弾むほどだった。
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