4.ラマ島

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「まずいな。結構並んでる」  とりあえず最後尾についた二人だったが、順番が巡ってくるまでには、5~6組の先客がいる。 「こ、これは……素直にま、待ってたら、間に合わないわね」  愛藺の息はまだ整わない。 「埠頭まで走る?」 「そ、それは勘弁して……」  情けない愛藺の懇願に嘆息した凱悦は、前に並んだ人々を暫く観察すると、突然すぐ前にいた六十代くらいの女性の肩を叩いた。 「すみません、マダム」  おそらく生まれて初めてマダムと呼ばれたであろうその女性は、驚いたように振り返り、酔いも醒めるような凱悦の容貌にたちまち頬を赤らめた。 「僕たち、十一時のフェリーに間に合わないといけないんです。申し訳ありませんが、順番を譲っていただけませんか」  うっとりするようなキングス・イングリッシュだったが、女性は英語が解らないらしく、困ったように前に並んでいた三十代の女性たちに助けを求めた。
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