4.ラマ島

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 しかし、その女性たちは、最近香港へ移ってきたばかりの福建省出身者だったらしく、英語はおろか広東語も解さない。  その前に並んでいた老婦人は、広東語はわかっても英語がわからない。  さらにその前に並んでいた日本人グループは両方わからない。  凱悦のお願いは、先頭に並んでいたフィリピン人女性のグループでようやく解明され、偶然にも女性たちだけで構成されていた待ち人たちは、凱悦の外見も手伝い、二つ返事で順番を譲ってくれた。 「どうもありがとうございました」  乗り込んだタクシーの窓から凱悦がお礼を言うと、譲ってくれた諸嬢(?)が、力いっぱい手を振ってお見送りしてくれる。  にこやかに手を振り返していた凱悦は、しっかりと窓を閉めてから運転手にハッキリとした広東語で行く先を告げた。 「中環の6番埠頭まで。十一時の出航なので急いでください」  背に腹は代えられないが……これは詐欺ではないだろうか。
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