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その絶望したようなつぶやきに彼の視線をたどった愛藺は、タクシーの十数メートル先に、大きなバイクが横止めされているのを見た。そして、それにまたがっている麗星の姿も。
「うそ……どうして!?」
凱悦の話ではまだ動けないはずだ。というよりなぜ前にいるのか。
「バイクでタクシーの上を通って追い越したんだ」
凱悦が動揺を抑えるようにきつく唇を噛む。兄がこんなにも早く追ってくるとは予想外だったのだろう。
「どうしよう……?」
フェリーの出航まであといくらもない。凱悦が強いといっても、麗星には帰趨プログラムのせいで逆らえない。もし勝てたとしても、楽勝というわけにはいかないだろう。下手をすれば負けてしまう可能性もある。
「……決めた。愛藺、車の運転はできる?」
突然何を言い出すのかと思ったが。
「い、一応できるわ。ペーパードライバー気味だけど」
「よし。じゃあ君はこのタクシーで埠頭へ行くんだ。予定通りフェリーに乗って。いいね?」
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