最後にやっと

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口をつぐんで俯くわたしに、チラッと視線を移したかと思うとまたすぐに前を向く。 「でも…俺は、自分の代で甲子園に出場することすらできなかった……予選敗退が決まったとき、俺どうしていいかわからなかったんだ。プロ野球選手になることが夢で。その夢をずっと追いかけてきて。でもその夢があっけなく絶たれた…………大学からは推薦はきたけど。プロからは何も来なかった。ほんとは野球続けたかったよ………でもこれ以上親に迷惑かけられないって思って…」 何もかける言葉が思いつかなかった。 ただただ自らの無力感を痛感して、心がキューッと締め付けられる。 わたしは中川のことほんとに何も知らなかったんだね。 いろんな思い抱えて野球をやってたなんて、そんなの何も知らなかった。 「大学は…?断ったの?」 「うん、断った…」 「じゃあ、今は?」 「専門学校行ってる。理学療法士の」 「理学療法士?」 「俺さ、高校一年の秋、肉離れおこして。その時理学療法士に世話になったんだ。すっごいよくしてもらって。だから俺、もし……もしプロ野球選手になれなかったら理学療法士になろうって決めてたんだ」 「そう、だったんだ…」 「だから来年の四月から働き始める」 「来年?ってことはもうちょっとだね」 「うん」 「わたしはそれで十分だと思うよ。だって全力でやったんでしょ?全力でやってダメだったんなら、いいじゃん。第二の夢叶えたんだから。それで十分じゃない?」 「……かりな」 「わたしはそう思うよ?」 前越しになって、俯く中川の背中にそっと手を置く。 「妹さんも喜んでくれたでしょ?」 「それが……妹、俺が高校三年の夏の予選で敗退する前に、緊急入院して。ずっと無理してたんだ………妹も、家計が苦しいのわかってたから。自分が入院したらまた親に迷惑かかるからって」 「そんな…」
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