序章

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 もしもあいつが生まれてこなければ、自分はさぞかし楽だったろう。  そんな思考ばかりが、頭の中を支配した。  あいつが生まれてからろくなことがなかった、と、なぜか。楽しいことも、うれしいこともあったはずなのに、その記憶はどこかに追いやられて、嫌なことしか浮かばない。  あいつのせいで自分は、大切な人を失った。  あいつのせいではないとわかっていて、そう納得していたはずの過去が、恨みで、憎しみで覆されていく。  憎い。恨めしい。  ――ならばどうする?  自問して、彼は闇の中で目を開けた。
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