貴公子とおてんば巫女

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 冬の寒さの中で、梨花は空を見上げた。  キンと冷えた青空には雲ひとつなく、昨夜の雪が嘘のようだった。それでもひび割れた石畳に積もった雪は本物で、梨花は一つ息をついた。その吐息で窓が曇る。  ガラス越しに見た景色は家の庭。一面が白粉(おしろい)を施されたように雪化粧をしている。雪を見るのは好きだが、今夜は仕事だ。しかも場所は山間部である。昼間のうちにどれだけ溶けるか。溶けても気休め程度だろう。 「……あ」  窓の外に人影を見つけて、梨花は玄関に向かった。気に入っている編み上げブーツに足を突っ込んで、外へ。
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