貴公子とおてんば巫女

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「お久しぶりです。叔父上」  いまは離れて暮らす叔父、三神和敏(かずとし)に頭を下げた。梨花の長い髪が、動きに合わせて肩からこぼれる。 「ああ、久しぶり。梨花」  顔を上げると、叔父が微笑んでいた。兄弟なだけあって、その微笑は梨花の死んだ父と似ている。最後に父の笑顔を見たのはいつだったか、梨花はもう思い出せないけれど。  去年の十月、梨花は父と兄を失った。この国の闇と戦う、神社庁の機密機関、心霊対策特別派遣処理班。梨花たちはそこに所属している。何百年も魑魅魍魎と戦ってきた家系に生まれたからには当然、死を覚悟で戦いに臨む。けれど、本当に身近な人を失って、梨花は一人になってしまった。  梨花にはもう、頼れる親戚は叔父たちしかいない。梨花の母は、彼女を生んで亡くなった。梨花はいわくのある忌み子でもある。
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