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なにはともあれその誇りがある限り、負けたくなどないのだ。
だから手抜きなどしたくないし、それは相手に失礼だ、と言う考えもあるので、全力で試合をするだろう。
だから、彰は沖田との試合を山南として生きることになったその瞬間から、今までずっと、どんなに好敵手・沖田と試合してみたいと思っていても、我慢し続けていたのだ。
「そう言えば…山南さんと総司って、試衛館の頃から一回も試合してるとこ、見た事ねぇよな。」
藤堂が思い出したように呟いた。
その言葉に反応したのは土方である。
「面白そうじゃねぇか。やってみろよ。」
整った役者のような顔に、ニヤリと少年の様な笑みを浮かべながら土方が彰に近づく。
「…彰。副長命令だ。」
そして、だれにも聞かれぬよう、彰の耳元でそう囁いた。
「…分かりました。やりましょう。」
それを聞き、彰は表面的には溜め息を吐きいかにも仕方なく、と言った様に頷いた。
だが、それは表面上の話。
内心は久しぶりに好敵手と戦えるという、歓喜に満ちていた。
それに、彰の中でやると言う事は、土方がやってみろ、と言った時点で、ほぼ確定していたようなものなのである。
彰にとって土方の命令は絶対なのだ。
沖田が
“竹刀と木刀どっちにする?”
と問うと、彰は竹刀ではなく木刀を選んだ。
何故なら、即座に試合を終わらせようとしたからだ。
両者が出揃った。
「一本勝負、実戦形式で何でもありで。斎藤くん、審判お願いしてもよろしいですか?」
彰がそう言うと、斎藤は静かに頷き、中央まで行くと、道場中に響く凛とした声で試合開始を告げた。
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