一人目「楠小十郎」

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「僕は、……また…負けたのか、彰に。」 そして胸の中に彰の顔を思い浮かべる。 ほんとに泣いているとこ、いつから見てないかな。 ほんとに怒ってるとこ、いつから見てないかな。 ほんとに笑ってる顔、いつから見てないだろう。 「君はいつも偽ってる。笑顔も、強さも、何もかも。  ……ねぇ、彰。  本当の君は何処にいるの…?」 顔を酷く歪ませる。 悲しみと後悔の念から。 そして、自嘲的に笑った。 「…彰に、そうしろって言ったのは、僕たちだったね。  彰から、何もかもを、奪ったのは…」 僕の呟きは道場に響いて、ただただ消えて行った。
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