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まだ朝露のたちこむ明け方。朽木彰は目を覚ました。まだまだ布団に包まっていたい思いを抑え込み、彰は起き上った。
春になったと言うのに、京の朝は未だ肌寒く、思わずぶるりと体を震わせる。
「…今日も、一日が始まる。」
そして、何故か隣で寝ている男…山崎烝を起こしにかかる。
「起きて下さい。もう朝です!」
ぐらぐらと布団の上から体を揺らすが一向に起きる気配はない。
「んん……」
寝ぼけながら、彰を布団の中へと引きずり込む。
「はぁ…」
しかし、当の彰はそんなことには慣れてしまったのか特に驚く様な素振りは見せず、一つ溜息を溢した。
「起きてますよね?」
「ばれてもうたか。」
彰が呆れた様に言うと、寝ていた筈の山崎は目をぱちっと開いた。
「ばれたも何も…山崎さんが私より遅く起きるなんて有り得ないじゃないですか。」
彰は腕を振り払おうとするが、山崎がよほどがっちりと押さえているのか一向に取れない。
「ってゆーか、彰。」
急に真剣みを帯びた山崎の声に彰の体がびくりと揺れる。
「…なんですか?」
「そない簡単に布団の中に引っ張られてもうたら、あかんで?」
山崎が“襲われてまうで?”と耳元で低く囁く。それに彰は、今度は先ほどとは違う意味で体をびくりと震わせた。
だが、それは決して甘美なものではない。
単に癪に障ったのである。
「…冗談はやめて下さい。男色ですか?」
「クスクス…ちゃうけど?」
ふんっと鼻で笑い、若干の苛立ちを見せつつそう言う彰に対し、山崎は楽しそうに笑っている。
「なら離して下さい。知らない人が見たら、男色だって疑われちゃいますよ。」
「かわええなぁ、心配してくれとるんか?」
ニコニコと笑いながらそう問う山崎の問いには答えず、何度目かも分からない溜め息を吐く彰。
こう言う時の山崎には、何を言っても無駄だ、と言う事を熟知している彰は、呆れて何も言えなかった。
「わいは男色ちゃうで?」
そう言いながら山崎は彰をようやく解放した。
「せやけど、此処には男色も大勢おる。 彰は顔が顔や。用心した方がええよ?」
いそいそと布団から抜け出す彰を、笑いながら見つめ、そう言う山崎だが、目付きは真剣そのものだった。
だが、山崎も分かっていた。
彰にこの手の話をしても、自覚がないのだから意味がないという事を。
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