10人が本棚に入れています
本棚に追加
道場には一番隊と三番隊、そして非番の自主的にやって来た隊士達。
それに加え、沖田・斎藤・永倉・原田・藤堂・彰。
更には土方の総勢三十名程が集まっていた。
三十名と言うと、現在の新選組隊士の七割ほどである。
何故こんなにも隊士が集まっているか、と言うと。
「山南さんを道場で見かけんのも、何日ぶりだ?」
「一月ほどですかね。」
そう、久しぶりに彰が稽古を付けると言ったからである。
彰の稽古は非常に評判がいい。
分かりづらい上に、隊士の体がぼろぼろの雑巾になるまでしごき続ける沖田。
助言は的確なのだが、厳しく妥協を許さぬ斎藤。
槍に関しての教え方は彰とそんら遜色ないが、剣には乏しい原田。
人を見る目はあるのだが説明下手で、言葉より体で覚えろ派な藤堂。
教え方が雑で厳しい土方。
などなど…とにかく、この新選組幹部連中は、基本的に教えるのが下手なのである。
それに比べ、彰・永倉・井上は教え方がうまく、助言が適切。
きつくない…と言う訳ではないが、程よく厳しくかつ教え方がうまいので人気があるのである。
特に彰は厳しくも優しく、どんな者にも手取り足取り丁寧に稽古をつけた。
それに、美しい容姿もあり、三人の中でもずば抜けて人気だった。
「山南さん! 勝負、しようよ。」
子犬の様な輝く笑顔で沖田が彰のもとへやって来る。
その裏に
“やらなかったら…分かるよね?”
と言う、ドス黒いオーラが漂っているのは勘違いではないだろう。
「嫌です。」
それをさらりとかわす彰からも本人は無意識なのだろうが、
“ふざけんな、誰がお前なんかとするか”
的なかなりの黒いオーラが滲み出ているのだが。
「僕と戦うのが怖いの?」
「まさか。ただ、沖田くんと戦うと面倒なことになるんです。」
沖田が挑発するが、彰はそれに乗ることもなく、頑なに拒む。
何故なら。
沖田は試合中、好敵手と対峙すると理性が崩れ、周りが見えなくなる悪い癖があった。
それが彰にとってはまずいのだ。
試合に夢中になり過ぎて沖田の悪い癖がでもすれば、山南の本性がばれてしまうかもしれないからだ。
ならば、そうならない様に手を抜けばいいのではないか?
たしかに、それが一番利口な手だろう。
しかし、彰にも剣士としての誇りがある。
普段、彰は飄々としているので、熱くならない人間だと思われがちなのだが。
最初のコメントを投稿しよう!