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錫杖の男は、三度目の祝言の場に紛れ込んでいた。寝ず見の役を仰せつかっている。新郎は里の権力者の養子だという。儀式の合間に漏れ聞いたところでは、権力者には息子がおらず、娘が二人いたらしいのだが、慌てるように遠方へと嫁いで行ったらしい。恐らく、里で立場の弱い者が新婦の役を押しつけられているのではないか。火男が鍜治の里を離れている以上、娘に現在、後ろ楯のようなものはないだろう。個人は集団に敵わない。組織はいつだって、個を貶めることができる。寝ず見とは初夜の見届け人。実態は、新妻が逃げ出さないように監視する役目であろう。白無垢白粉の新婦はもちろん美しかった。遠目だが、新婦はすでに酒を何杯も呷ったかのように真っ赤な顔をしており、まるで猿のように見えた。いやどう見ても猿であった。確か、五通七郎諸神に猿人のような山鬼がいた。女好きであり、家に押し入っては女に乱暴を働き、子供を産ませるという。さらには盗みを働き、放火して立ち去って行く傍若無人ぶりである。おまけに山鬼は、法力では退治することができないらしい。
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