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遠慮はしない。
私が空に向けた愛情、それを全部見てもらう。
私は空の頬にするりと手を当てた。
そしてそのままスリスリとなぞる。
なめらかな肌の感触、髭の感触、それを確かめながら指を滑らせる。
柔らかな髪に触れ、伸びた髪に喜びを感じる。
トクン、トクンと鼓動する心臓。
私は空の胸に顔を埋めた。
生きてるって実感を最大限に感じながら目を閉じる。
空の体温、空の温もり、
それは前と変わらずあるもので、私はそれに安堵する。
それだけでも十分だ。
「アイツもここに来た事があるのか…?」
小鳥遊くんの問いかけに私はゆっくりと顔を上げた。
「唯人は…、」
そしてその時目に入ったのはオレンジと黄色のガーベラのアレンジメント。
誰かが空のお見舞いに来た証拠。
空の家族は花は贈らない。
私も数える程だ。
だったらこのアレンジメントは誰が?
私には何となくわかっていた。
「唯人は2回だけ…。」
一度目はリンドウの花束を持って高校生の頃に。
二度目はきっと昨日…。
「そっか…。」
小鳥遊くんは複雑そうな顔を浮かべてクシャクシャと髪を掻いた。
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