第1章

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「まぁいいじゃないの。ほら、今年も始めるわよ」  ああもうそんな時間か、と私は重い腰をあげると、軍手を装着した。持参してきたトングを握り、ビニール袋を広げる。まずは、先ほど落ちたビール缶から。  そういえば、このビール缶は中身が入ったままだったな。  近頃の客は、楽しむだけ楽しんで、後片付けが面倒くさくなってセットごと放置して帰ることがあるらしい。 「ネズミ算式に分離していくこの世界で、内の万(まん)の位の分離は人間が作ったと言われているわ」  話をつづけながら春一番も私と同じ装備セットでポイポイとゴミを投げ入れていく。非常に数ピーディーだ。 「でも、人間の作る物は全て人間が上位にある物なのよね。だからこうやってゴミを捨てていく。自分で作ったのだから、自分より低い位の存在だ、と勘違いしている」 「自分より上の存在なんて作れないからね。いや、作らないのかな」 「逆説的に言えば、神話の時代から人間を作ったのは神であるとされているのよ」 「神話そのものを人間が作っている可能性もあるけども」 「あら、作りものじゃない証拠が目の前にあるじゃないの」 「……」 「森羅万象は、誰かに作られて生まれ、最後は作られたものに壊されると言われているわ」 「ふーん。適当に言った?」 「ご明察」  雨あられだなんて言葉も、桜の花びらに変われば魔法のような情景に早変わりしてしまう。  吹きすさぶピンクの破片。  黙々とゴミを拾う僕と春一番。
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