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「最近、機嫌がいいですね」
休憩室。
珈琲を飲んでいた俺に、後から来た徳井が声を掛けて来た。
言いながらも、自身の珈琲を用意する徳井を目で追いながら、珈琲カップに口をつける。
「何か、良い事でもありました?心なしか、肌もツヤツヤですよね」
「逃げた野良猫が、正式に家族になったからな」
こいつには色々と心配を掛けていたようだし、近状報告をすると、徳井は作りたての珈琲を一口飲み、移動して来て俺の向かいの席に座った。
「良かったじゃないですか。おめでとうございます」
「おう。お前が言ってた首輪ってやつも付けたしな」
そう。
隼人には、首輪……じゃなかった……チョーカー…ってやつをプレゼントした。
気に入ったらしく、いつも身につけていて、そんな奴の姿を見る度に、心が擽ったくなるような幸せを味わっている。
「あぁ、やっぱり首輪は付けるべきですよね。で?その猫に名前はつけたんですか?」
「……………は?」
「は?」
思わず固まった俺に、徳井も訳が分からないといった表情で固まった。
「な……まえ?」
「名前ですよ。必要でしょう?呼ぶ時、何て呼ぶんですか?猫とでも呼ぶつもりですか?タマなんてネーミングセンス、止めて下さいね」
…………………。
「徳井……何でも分かってるような口振りで喋るけど、本当は何も分かってない奴だよな、お前って」
「は?猫の話でしょ?」
猫は猫でも、人間の男の話だ。
「いや……うん、猫だな、猫。猫の話だ」
言いながら、立ち上がってそれとなく、その場を離れる。
「ちょっ、何ですか?え?猫じゃないんですか?葛西さん?」
呼び止める徳井を置いてけぼりにして、休憩室を後にした。
いや、うん。
今日も徳井は、いい奴だ。
「今日も良い天気だなー」
廊下の窓を見上げ、手にしていた珈琲を飲む。
平和な一時に、ホッと一息ついた。
END
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