二章

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「なんだよ、それ」 ……前を向いてくれて、良かった。 赤くなった顔を、見られずに、済む。 「それに、私、彼氏つくらないって決めてるもん」 彼女が落とした言葉には、僅かだが、諦めの感情が含まれていたように思えた。 俺が口を開くより先に、彼女が口を開く。 「やーー、ほんと、びっくりした。告白って、される側も、恥ずかしいんだね」 意識してなのか、やけに彼女の声は明るかった。 「されなれてるんじゃないの」 「そんなことないよ。私、モテないもん」 いや、モテてるだろ。 彼女は気付いていないが、理央なんかはかなり惚れ込んでいる。 彼女の家まであと二軒、というところで、彼女は足を止めた。 「ここまででいいよ」 「いや、すぐそこだし、送るよ」 「いいから」 彼女にしては珍しく、はっきりとした口調だった。 「じゃ、ここから見てるから」 「ありがと、送ってくれて」 「こっちこそ、……飯、ありがとう」 ぶっきらぼうにそう言えば、彼女はくすりと笑う。 「いいよ。温めて、食べてね」 「うん」 「また明後日、だね」 「そうだね。寝坊、するなよ」 「はーい。……じゃ、おやすみなさい」 「おやすみ」 小走りで家まで向かって、家の前でこちらに手を振る彼女。 俺も小さく振り返し、彼女が門扉を開けて中へ入っていくのを確認してから、自宅へ戻った。 靴箱の上に置いたままの、彼女が持ってきてくれた紙袋を持ち、リビングへ入る。 ダイニングテーブルの上に置き、タッパを取り出す。 大きめのタッパに入っていたのは、俺の好物の一つの、エビチリだった。 「ただいま」 テレビを見ていたら、父が大きな荷物を抱えて帰ってきた。 「おかえり。それ、母さんの?」 「ああ。着替え、持って帰ってきた」 「明日、新しいの持ってくよ」 「助かるよ。お前が顔出すと、あいつも喜ぶからな」 父は荷物をソファに置き、ダイニングテーブルに近づく。 「お。今日はエビチリか」 タッパを覗いて、嬉しそうに父が言った。 母が入院している間、彼女が代わりに晩飯や俺の弁当をつくってくれている。 父はそれが嬉しいらしい。 流石に毎日は悪いと断れば、1日おきに持ってきてくれるようになったのだが、父親は密かに彼女の作る夕飯を楽しみにしているのだ。 タッパを覗きこむ父の顔を見れば、言葉にしなくても一目瞭然だ。
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