一章

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彼女の瞳の中に映る自分を見つける。 「何?」 「ううん、なんでも。あれ、陽ちゃんお弁当は?」 あ、弁当……。 いつも通り理央と教室で食べるはずだった弁当は、机の上に置いてきたままだった。 「もう食べてきた」 「早弁?」 「うん」 弁当は、教室に戻ってから食べればいい。 パックにストローを差して、購買で買ったコーヒー牛乳をすする。 彼女の隣で飲むそれは、いつもより甘く感じた。 「陽ちゃんと学校でお昼食べるの、初めてじゃない?」 「……そういえば、そうかも」 「なんかヘンな感じだね」 膝の上で弁当箱を広げた彼女は、嬉しそうに笑って卵焼きを口にした。 それから彼女の昼ご飯に付き合って、教室に戻ったのは授業開始5分前だった。 「おかえり太陽ちゃん」 理央は俺の隣の席に座って、菓子をつまんでいた。 「ただいま」 弁当は、……次の休み時間に食べよう。 「長かったな。腹、壊したの?」 「壊してないよ」 次の教科で使うノート類を出し、ぼんやりと誰もいないグラウンドを眺める。 そのうち予鈴が鳴り、理央のせいで席に座れず困っていた女子の代わりに俺が理央をどかしてやれば、本鈴が鳴った。 問題を解き余った時間で、雫が言っていたことの意味を考える。 実は雫と俺は、1ヶ月ほど前に揉めていた。 *** その日、回覧板を届けにきた雫が話があると言ったので、団地内の公園へ二人で行った。 久しぶりに座ったブランコは、随分と窮屈なものに感じられた。 なかなか話し出そうとしない雫に声を掛けると、雫は下を向いたままポツポツと話し始める。 「太陽は、このままでいいの」 「このままって、何が?」 質問の意図が分からず聞き返すと、雫にしては珍しく小さな声が返ってきた。 「小夜ちゃんのこと。ずっと、このままで、いいの?」 「だから、どういう意味?」 「だから!」 雫は怒ったように声を張り上げた。 「小夜ちゃんに彼氏いても、太陽はずっと好きでいるの?」 一瞬、胸に釘でも刺されたかのように鋭い痛みが走った。 俺の動揺が、表に出ないように落ち着いて話す。 「あいつのこと好きって、俺が?」 「幼馴染だもん、見てれば分かる」
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