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……困ったな。
雫は変な所で感が良い。
「その、彼氏っていうのは、誰情報なの」
俺が中学2年生、彼女が中学3年生の時にも一度、そんな噂が流れたことがあった。
当時の俺は本人に確認する勇気を持っていなかったし、何より彼女が俺に何も言わなかったから、俺はただの噂だと信じていた。
「中学の時とは違うよ。だって、あたし情報だもん」
「雫は、見た訳?」
「見てないけど、知ってる」
キリ、と胸が痛んだ。
「そっか」
ブランコを少し揺らす。
錆び付いた鎖が、金具音を立てた。
「多分、小夜ちゃん本気だよ」
痛いのは胸のはずなのに、鼓動に合わせてどくどくと痛みを上げ始めたのは右膝だった。
「本気じゃないと、あんなこと……」
徐々に右膝が熱を持ち、俺は右手を膝に乗せた。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「ショックじゃないの?」
雫が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
「俺は、別に。……あの人が良いなら、それで良いんじゃないの?」
「何それ……」
涙声にはっとして顔を上げれば、雫は目にいっぱいの涙を浮かべていた。
やってしまった……。
「何それ、馬鹿じゃないの」
謝るのも何か違うと思い、かと言って代わりの言葉を探す余裕もない俺は、ただただ痛みに耐えていた。
「馬鹿。太陽の馬鹿!」
ポロ、と一筋涙が頬を伝って落ちる。
そのまま雫は走って公園から出ていった。
……なんで、雫が泣くんだよ。
「痛い」
歯を食いしばって膝をさする。
怪我をしたのは、もうずいぶん前なのに。
それも、完治したはずなのに。
「なんなんだよ……」
やがて痛みが引いていき、さするのをやめて空を見上げた。
団地の一番上にあるこの公園からは、星がよく見える。
星、きれいだな。
夜、寒いな。
……雫のこと、泣かせちゃったな。
あいつ、怒るとしばらく口聞いてくれないんだよな……。
『陽ちゃん』
彼女の無邪気な笑顔が頭に浮かんで、俺はため息をついた。
ずっと。
ずっと、何となくだけど、彼女とは一緒にいられると思っていた。
「……彼氏、誰なんだろ」
直接本人に聞く気がない俺がいることに気づき、中学の時から何も成長してないな、と自嘲の笑みを漏らした。
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