一章

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雫は次の日から、俺を避けるようになった。 雫はバスケ部の練習があるので登下校は元々別々だったが、団地内や校内ですれ違っても、目を合わすこともしなくなった。 屋上での雫の言い方からして、おそらく彼女に、どうして彼氏がいることを黙ってるんだ、とでも言ったんだろう。 だとしたら、彼女は何て答えたんだろう。 「出席番号14の人は問1を、15の人は問2の答えを黒板に書いてくれるかな」 14、俺だ。 担任兼英語担当の鈴木先生に当てられた俺は、慌てて思考を切り離してノートを持ち席を立った。 「うん、二人とも正解。じゃ解説するわね」 鈴木先生がチョークを持ち、英作文の解説を始める。 窓の外を見るのは、もう習慣になってしまったのかもしれない。誰もいないグラウンドは、稲刈りの終わった田んぼと同じ色をしていた。 「太陽、また明日な」 「うん。部活、ファイト」 バレーボール部の理央を見送り、俺はノートを開いた。 ホームルームが終わると大抵の生徒は部活に行ってしまう為、教室には帰宅部の数人しか残っていない。 俺も普段は帰ってしまうのだが、数学で解きかけの問題があったのでそれを終わらせる為、少し居残りしていくことにした。 はっとして目を覚ますと、外は真っ暗だった。 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 「寒……」 身震いするような寒さに、思わずそう呟いた。 教室の壁時計は7時を少し過ぎた所だった。 帰り支度を済ませ戸締りをし、廊下に出る。 3階にはもう誰もいないみたいで、しんと静まり返っていた。 1階に着き靴を履き替えていると、部活終わりの生徒達と出くわした。 「あれ、長谷川居残り?」 「うたた寝してた。部活、お疲れ」 「おうよ。長谷川もうたた寝お疲れさん」 ヨシモトの返しに笑いながら昇降口を出たら、そこには雫がいた。 振り返って俺を見て、気まずそうに目をそらす。 「お疲れ」 声をかけて、立ち止まることはせずに自転車置き場へ向かう。 校門を出て自転車に跨り、俺は帰途に着いた。
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