二章

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「はい、これ」 ドアを開ければ、彼女が紙袋を下げて立っていた。 「いいのに、別に」 俺の素っ気ない言い草に気を悪くする様子もなく、いつもと同じ笑顔を見せる。 「毎日カップラーメンじゃ、体、壊しちゃうでしょ」 「……昨日はうどんだったし」 我ながら、かわいくないヤツだと思う。 紙袋を受け取る際、俺の手に彼女の手が触れた。 その手の冷たさに驚き、彼女の顔を見れば、鼻の頭が赤く色づいている。 「外、そんなに寒い?」 土曜日の今日、1日中家にいた俺は、外の寒さを知らなかった。 彼女はきょとんとして、それから首を振る。 「ううん、そんなに、かな?」 「……鼻の頭、赤くなってるよ」 「トナカイのマネ」 白いダッフルコートに赤いマフラー姿の彼女は、どちらかといえばサンタクロースに似ている、と思う。 「お父さんはまだ帰ってきてないの?」 彼女が玄関を覗く。 「病院寄ってくって」 「お母さん、どう?」 彼女の言葉に、ベッドで横になっている母の姿が頭に浮かぶ。 「割と元気だよ。先週行った時も、りんご丸々一個食べてたし」 半年前の健康診断で早期癌が見つかった母親は、治療の為、市立病院で入院している。 実は最近転移が見つかったものの、発見が早かった為、手術で除去することが出来るそうだ。 このことは彼女には黙っておく。言ったらきっと、情けない顔をするからだ。 「早く良くなるといいね、お母さん」 「……そうだね」 「クリスマスまでには、退院できそう?」 「どうかな。……一時帰宅なら、できるかも」 「そしたらお家でケーキ、食べられるね」 まるで自分のことのように喜ぶ彼女に、俺の心はじんわりと暖かくなった。 「家、上がってく?」 彼女の瞳が、まん丸に開く。 ……しまった。 つい、調子に乗ってしまった。 別に下心は無いのだが、彼女のカレシの存在が頭をよぎり、俺は紙袋を靴箱の上に置いた。 「送るよ。8時過ぎてるし」 「え、いいよ、悪いもん」 「いいから」 壁にかかっているコートを着て、鍵を閉める。 「いいのに……」 「何かあったら後味悪いだろ」 階段を下り、門扉を開けて振り向けば、彼女は困ったような顔で笑った。
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